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青森地方裁判所 昭和49年(ワ)178号 判決

原告

フジタ工業株式会社

右代表者

藤田一暁

右訴訟代理人

富永義政

石井文雄

鈴木信司

岡田久技

山崎俊彦

田島恒子

菊池祥明

渭水正英

倉重安雄

被告

稲田さき

外三〇六名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一本件は、山林共有者の一人である原告が他の共有者二八七名を被告にして提起した共有物分割の請求訴訟である。

共有物分割請求訴訟は固有必要的共同訴訟であるから、訴状など共同訴訟人の全員につき送達したうえで訴訟手続を進行すべきものであるし、一人につき中断事由があれば全員の訴訟手続を進行し得なくなる。分離して審理することもできない。

記録によれば、被告らの中に転居、死亡等の事由が生じていて訴状送達に年月を要し、これが完了したのは昭和五七年九月であり、訴状提出のあつた昭和四九年七月から八年を経てやつと訴訟係属が生じたこととなる。

二原告の本訴請求に対し真剣に争う態度を示している者は被告らのうちの一割にも満たないと推察される。従つて原告において被告らのうち争わない者を原告側に組入れるとか又はその持分の譲渡を受けることも可能であつたと思料される。そこで当裁判所においては原告訴訟代理人に対し、訴訟外における交渉により被告の数を整理し又は被告らに選定当事者を置かしめるなどの努力をして訴訟手続が円滑、迅速に進行し得るよう協力を求めたがこれを得ることはできなかつた。

三昭和五八年六月三〇日に昭和五九年二月一四日の第一回口頭弁論期日を指定した。担当書記官はこれに間に合うよう辛苦して被告らに対する期日呼出状の作成、発送の作業に当つたのであるが、被告らの中に転居、所在不明、不在、死亡等の者がいて調査、再送達に務めたにもかかわらず送達不能の者五〇名、死亡した者三名の被告らにつき呼出状送達なきまま第一回口頭弁論期日を迎えた。

右期日に原告は訴状、訴状訂正申立書を陳述し、出頭した被告七名が請求棄却を申立て、二名の被告につき答弁書擬制陳述が行われて次回口頭弁論期日が昭和五九年九月一一日と指定された。しかし前述のように本訴は固有必要的共同訴訟であつて一人でも死亡しておれば全員につき手続が中断しているから、第一回口頭弁論期日に行われた右訴訟行為は効力を生じていないこととなる。次回期日の指定も効力を生じない。担当書記官は不出頭の被告らに対し前同様の作業により次回期日の呼出状を作成、発送したが徒労の結果となつた。

四当裁判所は、事件の円滑な進行と根本的な解決方法を案ずるため次回口頭弁論期日と指定された昭和五九年九月一一日に原告会社担当責任者の出頭を促すべき民事訴訟法一三一条に基づきその出頭を命じたが原告はこれに応じなかつた。

記録上には第一回口頭弁論期日が開かれて訴訟手続が有効に行われたように調書が存在するためこの日に指定された第二回口頭弁論は休止とした。

原告訴訟代理人においては、あえて争わない被告らとの交渉に努力し効果的な解決方法を検討し、それでも本訴訟を維持継続する以外に途がない場合にはその措置につき裁判所に出頭のうえ説明することとなつた。しかるに休止満了日が近くなつた一一月下旬になつて、期日を「追つて指定」とされたい旨記載した弁論再開申請書を郵送したのみで出頭を約しながらこれをしなかつた。

五本件訴訟はその性質上、書証のほか証人、本人等の取調や土地の検証又は鑑定を必要とし証拠調のための期日を繰返し開く必要がある。そして前記のような訴状送達、第一回口頭弁論呼出状送達の経験にてらしてみるとき、次回期日との間に七箇月の余裕を置いても送達を全うすることのできないこと明らかであり、また長い期間を置けばその間二八七名もいる被告の中に中断事由、転居などの事由が生じる割合を大きくするだけである。かかる状況下で訴訟手続を瑕疵なく遂行することは理論上はともかく現実には不可能である。これを克服するには前述のように原告において真摯に努力し協力しなければならず、これが訴訟遂行の意思を示すことに外ならない。原告は本件訴訟遂行の意思を欠くものと思料される。

訴状提出後一〇年を経て訴状送達のほかは訴訟手続上の効力が未だ生ぜず、進行につき見通りのつかないまま訴訟を係属せしめておくことは被告らを徒らに不安定な状態におくことであるしまた民事訴訟規則一条、三条、二七条の趣旨からも許されない。

六以上のとおりであるから本件は欠缺を補正できない不適法な訴に該るものというべきである。

よつて民事訴訟法二〇二条を適用してこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき同法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(斎藤清實 稲田龍樹 小池勝雅)

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